F・マリノスでは、チーム全員が仲間のゴールを心の底から喜んでいた。試合に出ていない選手も、本気で、素直に喜ぶ。勝利した時もそうだった。

 ヨーロッパでは、ゴールは自分自身がのし上がるためのものだった。自分のキャリアアップが第一だった。他の選手たちも、どこまでも上を目指す“個人戦”を戦っていた。

 日本に戻って、このチームで見てきた一つひとつのゴールは違った。それは、すべてがチームを勝たせるためのものだった。

 そんな光景に、「どうしてここまでチームのために素直に喜びを表現することができるんだろう?」と思いながら、毎日を過ごしていた。

 そして、あることに気がついた。僕よりも年上で経験もある3人の選手(水沼宏太選手、實藤友紀選手、中林洋次選手)の振る舞いがチームのムードを作り上げていた。

 もともとチームといっても、僕たちはプロのサッカー選手で、それぞれがチームと契約した個人事業主の集まりだ。それぞれの生活もかかっていて、家族もいる。チームメイトであってもポジションを争うライバルになる。

 高校生の頃なら、年末年始の全国選手権や夏のインターハイなど、ひとつの大きな目標に向かってみんなが自然と一致団結できた。だがプロになってからは、勝利が目標であることは間違いないが、なかなかひとつになることが難しい面もあった。

 F・マリノスには、自分を犠牲にしてでもチームのために行動できる選手が多くいた。特に経験のある選手たちの態度が、チームの特別な雰囲気を作り上げていた。

 彼らはみな、チーム内の成功については誰のものであろうと素直に喜んで祝福し、その一方で、出番に恵まれなくても、自分が今できることをやり切っていた。そんな姿勢がお手本となり、チーム全体に広がっていた。

 それは、このチームが誇る強さの理由のひとつでもあった。

 もちろん、自分がゴールやアシストを決められたほうがうれしい。出番も、ないより、あったほうがいい。当たり前だ。より多くのゴールやアシストを決めるために、「エゴイストになれ」と言われたこともある。

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それがすべてではない