水木しげるさんの妻・武良布枝さんの『ゲゲゲの女房』(実業之日本社)を企画・構成し、それを原案とした朝ドラが生まれ、裏方ながら、自分が作った本を多くの人に読んでもらう喜びを味わうこともできた。
節約料理、収納、ガーデニング、旅、インテリア、ダイエット、美容、ファッション、人生相談、占い……取材してはさまざまな記事を書いてきたが、五〇代からは主に女優や作家などの人物インタビューを担当した。
仕事を通してたくさんの人に出会った。取材でなければ会うことができない、各界の第一線で活躍している多くの人々に直接お話を伺うことができたのは、本当に貴重な体験だったと思う。忌憚なく話ができる一生の友人も見つかった。一方、弱い立場の者にマウントをかけずにはいられない人や不倫で飛ばされた人など、バラエティーにはことかかない。
フリーランスという不安と隣り合わせの仕事を、まがりなりにも続けてこられたのは、人に恵まれ、書くことが好きだったからというのに尽きる。一方、仕事を続ける中で私が感じた喜び、悩みは決して現代特有のものではないとも思う。
『凧あがれ』は『むすび橋』『星巡る』『願い針』に続く産婆・結実の物語だ。本書の舞台は、維新前夜の慶応三年、倒幕軍が攻めてくるという噂でもちきりの江戸。思い人が歩兵隊として出陣した女、天狗党の乱後の粛清で親を殺され水戸から逃げて来た娘、江戸に火がかけられたときに備える大店の女房……時代が変わろうとする嵐が吹き荒れる中、結実と同僚のすずはこうした人たちに寄り添い続ける。子育て中で仕事を満足にできないすずの肩身の狭さ、どこまでこのしわ寄せを引き受ければいいのかという結実のもやもやにも向き合っていく。結実とすず、どちらも私である。
同時に、世の中の移り変わりに翻弄される江戸を書きながら、今、世界各地で起きている紛争の悲惨さ、人々の苦しみを思わずにはいられなかった。人は歴史に学ぶことはないのだろうか、と。
今は結実たちと別れるのがちょっと寂しい。けれど結実たちはこれからも八丁堀でわちゃわちゃしつつも、女たちに笑顔で寄り添い続けると思っている。