
いずれ私たちも「できないこと」は増える
奥山さんは、美良生くんが生まれてからの日々をつづった著書のタイトルや、ダウン症への理解を深めてほしいと全国各地で行っている講演会の演題で「生きてるだけで100点満点!」という標語を掲げている。「実はお友達が言っていた言葉なんです」と奥山さんは言う。美良生くんが通っていた幼稚園で知り合った自閉症の子どもを育てているママ友の言葉なのだという。
「子どもたちが遊んでいたときに、『もう生きてるだけで100点だよ』って言ったんです。それを聞いたときに、すごく納得して、それに尽きるよなぁって。低い確率でしか生まれてくることができず、でもだからこそ、高い自己肯定感を持っていて、幸せに生きている人たちだから、そのことを私たちも忘れちゃいけないよねっていう気持ちがあります」
また、この言葉を聞いたときに「できないから悪いのではなく、できてもいいし、できなくてもいいっていう気持ちを教えてもらったんです」と奥山さんは言う。
「健常者は、今はいろいろなことができるけれど、年齢を重ねるごとにできないことが多くなっていくじゃないですか。そうなったときに、できないことを否定してしまうと、ゆくゆくは私たちの将来をも否定してしまうことになる気がするんです。だから、できないことを悪いって考えたら、いずれできないことが増える私たちも生きづらくなってしまう。だから、できなくてもいいし、できてもいいってみんなが思えれば、生きやすい社会になるんじゃないかなって思ったんです。社会に生きる人たちが『生きてるだけで100点満点だよね』って思い合えたら、優しい世の中になるんじゃないかなと思っています」
(AERA dot. 編集部・唐澤俊介)