賠償内容は“しゃくし定規”
谷氏によると、最近はこんな事例があったという。
「その被害者は、事故後に意識が戻らなくなった高校生で、家族が自宅で介護をしていました。食事のときはダイニングへ、一家だんらんのときはリビングへ移動するため、車いすでも通れるよう廊下を改装する必要があったのですが、損保側弁護士は、『意識がないのだからダイニングやリビングへ移動する必要はない。改装費用は負担しない』と言ってきたんです」
損保側の“心ない主張”が繰り返される背景の一つには、「よくも悪くも、損害賠償基準が定型化されている」ことがあると、谷氏は言う。
「基本的に、交通事故被害者への賠償額は、『この条件を満たした人は〇級』というような一定の基準によって決められます。そのため、被害者の状況は千差万別なのに、裁判所をはじめ、しゃくし定規に賠償内容を決める傾向が生まれてしまう。結果、損保側弁護士は被害者の具体的事情を無視したり、基準に当てはめようと被害者側の心情を逆なでするような論拠を持ち出すような主張をしてしまい、2次被害につながっていると感じます」
あいの会メンバーで、当時高校1年生だった娘を亡くした女性は、「保険には、被害に遭わないとわからない闇の部分がある」と話していた。事故によって多大な精神的ダメージを受けたあと、さらに加害者の損保からも傷つけられるという現実は、あまりに酷ではないだろうか。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)