解散した日本プロレスの選手を集めて、金のやりくりが大変で、いくらバックに日テレがいるといっても興行の世界だからコケることもあるし、資金が足りなくなることもある。

 そのときは、まだ全日にも馬場さんもなじんでなかったから「へえ、そんなこともあるんだ」って聞き流したけど、馬場さんには馬場さんの苦労や言い分があったんだね。アメリカに行けば自分で好きなだけ稼げて、気楽だったと思う。ただその分、終生、キャピトル東急ホテルで飯を食える人生でもあったわけだ。

 俺もWARをやってみて、初めて馬場さんがこぼしたのはこういうことなのかなって思ったよ。それを考えるとね、SWSを立ち上げたメガネスーパーの田中八郎社長は、もっと大変だったと思う。素人でプロレスに手を出して、ほかの団体の寄せ集めの選手ばかりで選手は文句ばかり言うけど、そんな選手みんなのことをちゃんとガードしてくれた。

 ホント、選手はのほほんとしてなにもしない。ファイトマネーが上がって自惚れちゃって、本社で会合をやると「一週間で3試合は多い」「移動はグリーン車じゃなきゃイヤだ」「天龍とのマッチメークは嫌だ」って文句ばっかりだったけど、それらを全部田中社長がうまく手配してくれるもんだから、ますます甘える。

 団体でハワイ旅行に行ったときなんか、幹部はビジネスクラスだったんだけど、帰るころになるとほかの選手がこぞって「エコノミーはキツイ。ビジネスクラスがいい」って言い出して、結局みんなビジネスクラスで帰ってきたからね。

 そうなるとみんな社長の方を向いちゃって、誰の言うことも聞かなくなる。自惚れて、勝手ばかりで、上昇志向もなくなるよ。SWSが解散するとき、俺は選手の前で「なんでここで社長に投げ出させるんだ。あと一年か二年、しっかりやっていればみんなもっと貯金が残せたのに」と言ってやったんだ。

次のページ
選手のことを考えてくれる社長はいない