船戸は読書家でもある。
「それぞれのジャンルで推しがいます。SFだと劉慈欣(りゅうじきん)。『三体』は何回読んでも気づきがある。もう亡くなられた伊藤計劃さんは私と同い年で、私の母と同じ武蔵野美術大学出身です。代表作『虐殺器官』は2001年のアメリカ同時多発テロ事件以後の世界を描いているはずなんだけど、いま読んでもウクライナやパレスチナの問題、そのままです。全然古びてなくてギョッとする部分がすごくあるので、いま読んでほしい。この方が生きてたら、いまどんなことを書いてたのかなって思います」
最後に改めて将棋の話を。
「以前、道場の方に許可をいただき、指導対局で豊島先生(将之九段)に教えていただいたことがあります。初心者のフリしてたんですけど、フルボッコにされました(笑)。服部慎一郎さん(現六段)は勝手にものすごく期待してます。初見で『この子、絶対ものすごく強くなる、だからいまのうち勝っとこ。いつか思い出にする』って思いました。だけど子どもだった服部さんにすら、研究会で一回も勝てなかったです。(高柳一門で甥弟子の)伊藤匠さん(現七段)は『この子が世界を変えるからよう見とき』と親戚のおばさんみたいに思ってます。(伊藤が挑戦した)竜王戦七番勝負は藤井聡太竜王が強すぎました。私の頭の中ではカラヤン指揮の『ツァラトゥストラはかく語りき』と小林研一郎指揮の『カルミナ・ブラーナ』が大音量で鳴り響いていました。怖いよ、藤井八冠」
(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2023年11月27日号