街路樹の伐採や再開発に伴う樹木保全が国内各地で社会問題化している。しかし、先進国の主要都市では市街地の真ん中に緑を増やし、「森」をつくるのがトレンドになっているという。背景を探った。AERA 2023年11月27日号より。
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日本のオフィス街の顔ともいえる東京・大手町に「森」があることを知る人はどれくらいいるだろう。じつはたびたび仕事で訪れている筆者も、「大手町の森」の存在を知ったのはつい最近。正直に明かせば、この夏だった。足早に通り過ぎるばかりだったのが、今年の猛暑でこのエリアの涼感に気づき、ふと立ち止まって周囲を見渡してみて驚いた。そこにあったのは街路樹ではなく、森だったのだ。
「ここには単なる緑地ではない、野性味のある『本物の森』が息づいています」
こう話すのは「大手町の森」を管理している「東京建物」のビルマネジメント第一部課長代理の高橋優希さんだ。
森の広さは約3600平方メートル。ここに植わる約200本の樹木は、2014年4月に完成した大手町タワー(東京都千代田区)の「公開空地」として13年に整備された。公開空地とは建築基準法や都市計画法に基づき、ビルやマンションの敷地に設けられた入居者や住民以外も自由に出入りできる空間。敷地内に一定条件を満たす公開空地を有する建築物は容積率や高さの制限などが緩和される。超高層ビルが林立する都心の再開発エリアに緑が多いと感じられるのはそのせいでもある。
とはいえ、大手町の森の規模はケタ外れだ。それにはこんな経緯がある。
敷地全体の約3分の1にあたる公開空地の整備に際し、開発を担う東京建物は「都市を再生しながら自然を再生する」というコンセプトを掲げた。これを具現化するため自然の森を調査した結果、【1】複雑な起伏の中で木が密集したりまばらだったりする(疎密)【2】幹の太さや木の高さなどさまざまな樹齢の木があり常に入れ替わっている(異齢)【3】常緑樹・落葉樹・地被類など多様な種類が混ざっている(混交)──という3要素が必要との認識に至る。
遺伝子かく乱に配慮、近郊の山から丸ごと移す
そこで導入したのが、「プレフォレスト」という手法だ。千葉県君津市の山林に、実際の「大手町の森」の約3分の1にあたる約1300平方メートルを確保。ここで土地の起伏や土壌の成分、樹木の密度や種類などを計画地と同じように整え、約3年かけて施工方法や植物の生育、適切な管理方法を検証した。こうして得られた植物や土壌を丸ごと君津市から移したのが大手町の森なのだ。森の造成にあたっては遺伝的かく乱に配慮するため、関東近郊の山から樹木を集めたという。