オフィス街のビルに囲まれた「大手町の森」の外観。「プレフォレスト」という手法で千葉県君津市の山林の樹木や土壌が丸ごと移された(写真:東京建物提供)

 本物の森を再現した効果は生態系の豊かさに表れている。施工時に確認していた植物は樹木・地被類を合わせて約100種。これが約1年半を経て約300種に増えた後、2021年時点で208種が確認されている。中には、国や都のレッドリストに記載される希少種も含まれる。

「多くは土壌の中に含まれていた種子から発芽して育ったものと考えられます。完成から約10年が経過した現在、確認されている約200種は適者生存した種とみられ、生態系の均衡状態が形作られつつある、と捉えています。一帯には希少種の鳥類や昆虫類も生息しており、生物多様性は着実に高まっています」(高橋さん)

 広大な緑地は冒頭で指摘した通り、気温の低い領域(クールスポット)を生み出し、ヒートアイランド現象の緩和にも貢献している。森をつくる前後の比較で敷地内の平均気温は1.7度低下したという。

「大手町の森」の地下にある土が一定量の雨を保水するため、下水に急激な流入が起きづらく、ゲリラ豪雨対策にも寄与しているという(写真:東京建物提供)

 また、地下にある土が一定量の雨を保水するため、下水に急激な流入が起きづらく、ゲリラ豪雨対策にも寄与しているという。

「あれだけ広大なスペースに里山の植栽を非常に丁寧に作り込み、周辺で働く人々からも親しまれている。公開空地の整備事業の成功事例といってよいでしょう」

 大手町の森をこう評価するのは、東京大学大学院工学系研究科の横張真教授(緑地環境計画学)だ。一方で、「プレフォレスト」については課題もあるという。

「プレフォレストの語源はプレハブ住宅に由来します。あらかじめ工場で部材を作って現地で組み立てるのと同じ考え方で、里山に森をつくり、それを都市の再開発現場に運んで新たな森とする。画期的に映る半面、もとの里山から見れば樹木や土壌を奪われてしまうことになります」

 都心の再開発事業を見守ってきた横張教授は足もとの実態を見据え、こう続けた。

「じつは今、東京をはじめとする都市圏の大規模再開発に際し、里山のような森をつくる動きが盛んになりつつあります。そうなると、各地の里山に自生している見栄えのいい長樹齢の樹木がどんどん移植の対象にされる可能性が出てきます。こうした樹木は野生生物の営巣地になるなど生態系維持に大切な役割を担っており、むやみに移植するのは問題もはらんでいます」

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