「過密なスケジュールで追い詰められている状況のなかで、上級生から下級生への指導が故人にとって大きな心理的負荷になったことは十分に考えられる」
などとしている。
これらに対しても川人弁護士がこう指摘する。
「上級生が劇団員に『うそつき』という言葉を使って叱責したことについてもパワハラと認定していない」
「うそつきという言葉自体、人格を否定する暴言で、厚生労働省のパワハラ基準に該当する」
一時代前、二時代前の思考
劇団員の大きな心理的な負荷になった可能性として、
「過密スケジュール中での上級生からの指導」
としたことについて、
「本件のような悲劇的な事態が生じたにもかかわらず、縦の関係を過度に重視する風潮をそのまま容認し、上級生のパワハラ行為を認定しないのは、一時代前、二時代前の思考と言わざるを得ない」
とばっさり。
パワハラがなかったという報告書の内容全般に対し、
「上級生が下級生を叱責するという劇団の慣行を無批判に的に受け入れ、今回もその延長線上に上級生の行動を評価し、叱責をパワハラと認定せず、業務上の指導の範囲内と評価している」
と劇団内の常識と社会通念との違いを指摘している。
劇団側と交渉へ
今後、遺族側は劇団に報告書に対する意見書を提出し、面談交渉をする予定だ。川人弁護士によると、遺族側が調査委に提出した資料などは劇団には渡っていないという。劇団側には、今回の報告書の認定を前提とせず、「再調査」を求めていく構えだ。
遺族側の主張が通らなければ訴訟という手段も想定されるが、川人弁護士は、
「今のところそのような話は出ていない」
「いまは交渉で解決できると思っている」
と答えた。
長時間労働を除けば、両者の主張は平行線。果たして本当に歩み寄ることができるのか。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)