土井敏邦(どい・としくに、左):1985年から三十数年間、パレスチナ・イスラエルを現地取材。主な映像作品に「ガザに生きる」(5部作)、「沈黙を破る」「愛国の告白」。著書に『「和平合意」とパレスチナ』『アメリカのユダヤ人』など/錦田愛子(にしきだ・あいこ):慶應大学法学部教授。専門はパレスチナ・イスラエルを中心とした中東地域研究、移民・難民研究。共著に『教養としての中東政治』、編著に『政治主体としての移民/難民』などがある(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 そこまで追い込んでしまったのは誰なのか。もちろん直接的にはイスラエルであり、占領なのだけれど、それを黙認してきた国際社会でもある。つまり、「ハマスが育ったことの責任は国際社会にある」といっても過言ではないと思います。

土井:私は34年間、「占領とは何か」を伝えてきましたが、確かにその伝え方は難しい。占領は「絵にならない」からです。

 いま日本でもメディアはこの戦争を連日伝えています。爆撃や破壊はセンセーショナルで、絵になりやすいから。でも、ガザの人たちが苦しんできた占領という“構造的な暴力”について、これまでメディアはろくに伝えてきませんでした。

 かつてミャンマーのクーデターがウクライナ戦争で私たちの話題から「消えていった」ように、ウクライナ情勢も今回のガザ情勢で消えていきつつある。ガザの問題も戦闘が収まればまた、すーっと報道から消えていくでしょう。ガザの人々は占領と絶望の中でその後も生きていかなければならないのに、もう誰も振り向かなくなるのです。

 そうならないためにも、私はジャーナリストとして、「問題」ではなく、そこで生きる“人間”を伝えたい。それを“鏡”に私たち自身を映し出し、私たちの在り方を問う、そんな伝え方ができれば一つ一つの出来事がつながり、人の心に残っていくと思うのです。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年11月20日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼