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パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスの大規模攻撃以降、イスラエルはガザ地区に報復し、攻撃が激化している。なぜハマスのテロが起きたのか。ジャーナリストの土井敏邦さんと慶應大学教授の錦田愛子さんが語り合った。AERA 2023年11月20日号より。
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土井敏邦(以下、土井):そもそも今回のハマスのテロはなぜ起きたのか。それは決して「10月7日から始まった」わけではなく、イスラエルによる長年の“占領”が大きな背景としてあります。
こう言うと、「イスラエルはガザに軍隊を置いてないじゃないか」と言う人がいる。違うんです。日常的に住民の自由と人間の尊厳を奪う時点でそれは“占領”であり、その生活基盤を日々確実に奪う“構造的な暴力”です。もっと言えば、占領はイスラエル国家による「テロ」でもあると私は考えます。
それに対し、欧米諸国の首脳たちは戦闘開始直後、イスラエルにやって来て「我々はイスラエルの味方だ」とパフォーマンスをしました。私はここに国際社会の欺瞞、ダブルスタンダードを見ます。どういうことか。
パレスチナの政治指導者の一人、ムスタファ・バルグーティ氏は、西側諸国にこう言いました。「あなたたちはロシアがウクライナに侵略し、占領したことにあれだけ声を上げ、援助をし、武器を送った。しかし、あなたたちは70年間占領されてきたパレスチナ人に、何をしてきたんですか。あなたたちの言う『占領に反対する』ってどういうことですか」と。本質を突く言葉であり、パレスチナ人の心の叫びだと思います。
占領とは、じわじわと、真綿で首を絞めるように人を殺していくこと。生活の基盤と人間の希望と尊厳を奪うことです。占領される中で、多くの人がガザからの脱出を試み、密航船が沈没して死んだ人もいます。この戦闘が終わったあとに残るのも、このような民衆の絶望です。実際、14年のイスラエルのガザ攻撃以降、ガザでは自殺者が急増しています。
錦田愛子(以下、錦田):占領による苦しさが自殺の増加を招いていると私も思います。同時にこうも思います。自殺することと武装勢力に入ることは彼らにとって「ほぼ同じ選択肢」なのではないかと。
土井:本当にその通りです。
錦田:どのみち死ぬのなら一戦交えて死のうと考えるか、暴力には訴えたくないから自分が死のうと考えるか。将来に絶望した若者が取る道としてはほぼ同じだと思います。