動物の駆除に対する自治体などへの抗議は今に始まったことではない。米田さんも県庁に勤務していた時に、「なぜ駆除するのか」「なぜ駆除しないのか」の双方で抗議を受けたといい、「君の名前を言え!」と言われたこともあるという。10月に秋田県にかかってきた抗議のなかにも「責任者の名前を言え!」というのがあった。

 米田さんは、「役所にはさまざまな意見が来るので、ある程度の抗議を受けるのは仕方がないかもしれません」としつつ、現状への懸念を口にする。

 「近年、クマが多く生息し、人身被害が発生している土地に生きる人々の現実と、動物愛護の思いを強く持つ人たちとの意識の乖離(かいり)が、非常に大きくなっていると感じます。例えば、私が講演で、人里にクマが来ないように『庭に柿の木がある人は、果実はもいでおくように』とアドバイスしたところ、『果実はクマに食べさせてあげたらいいだろう!』との抗議電話がきたこともありました」

 米田さんによると、駆除をしたハンターの家に抗議がきたケースや、さらには、山に入ってクマに襲われて死亡した人の家に、「自業自得だ」といった、駆除の原因を作ったのはお前だ、と決めつけんばかりの電話が続いた事例もあったという。このように個人を特定し、攻撃する風潮に米田さんは危機感を募らせる。

 「数が増えすぎて頭数調整をしなければならないなかで、肝心のハンターは減っています。山間部に生きる人たちには、山の恵みを受けて暮らしてきたという生活文化があり、山に入ることに罪はありません。にもかかわらず抗議が殺到してしまう現状はどうにかしていかなければならないですが、抗議をする側も、『自分は正しい』と思って電話をしているのでしょう。果たしてどのような解決策があるのか、簡単には思いつかないというのが本音です」

クマの被害を防ぐ緊急策として、管理者がいない空き家の柿の木を自治体が伐採=2023年11月2日、富山県魚津市
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