「ブギウギ」第5週、大和礼子(蒼井優)が死んでしまった。退団から4年、久々に大阪少女歌劇団(USK)を見にきた大和は臨月のお腹を抱え、福来スズ子(趣里)に「私の言った通りでしょ。あなたの歌、武器になったわね」と満面の笑顔で言っていた。それなのに、出産してすぐに死んでしまった。
USKのスターだった大和は、「桃色争議」と呼ばれたストライキを率いて人員削減と賃金カットを撤回させた。団員たちの待遇改善も勝ち取った。それと引き換えにUSKを辞めたのは理不尽だったが、大和はきっと復帰すると私の中で勝手に決めていた。大和がUSKを去った日、社長の大熊(升毅)は泣いていたし、そもそも大和をUSKに入れたのが大熊だ。ほとぼりが冷めれば大和は戻ってくる。娘役でなく演出家としてだろう、問題は時期だな、などと楽しみにさえしていた。
だから大和の死には、虚を突かれた。それから少し経ち、突然だったが、心臓がドキンと動いた。朝ドラを見て泣くことはしばしばあるが、終わってから心臓が動いたのは初めてだった。ああ、私は彼女の死が本当にショックなんだ。そう思った。
その理由はわりとすぐわかった。自分の中で信じていたことが、あっさり否定されたからショックだったのだ。「正しいことをしていれば、いつか必ずいい事がある」。常日頃からそう信じていたのが、大和の死で否定された。
「いい事」と書いたのは、敬愛する忌野清志郎さんゆえだ。「いい事ばかりはありゃしない」と歌うのを聴いたのは大学生の頃で、人生なんていい事ばかりじゃないよなーと思う頻度は当時と比べようがないほど上がっている。いい事どころか悪い事にぶち当たるたび、その苦さを味わいながら、心でずっと「でも、いつかいい事がある」と思ってきた。「わりと正しく生きてるから」と、それを頼みの綱としてきた。
大和は自分のことも人のことも、同じように考える人だった。退団後、腎臓を患い、医者に出産は危ないと言われていたが、「けど、どうしても子ども、欲しかったみたいで」と夫の股野(森永悠希)が葬式の席で語っていた。「母性」ゆえの死。そんなふうに聞こえなくもないが、それだけではないと断言できる。