AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。32人目は、船戸陽子女流三段です。AERA 2023年11月6日号に掲載したインタビューのテーマは「将棋以外の楽しみ」
* * *
船戸陽子は将棋の女流棋士であり、またワインのソムリエでもある。船戸がカウンターに立つ店は、この日も多くの客でにぎわっていた。
「今年の夏は暑かったから『ビールを飲みたい』ってお客さまが多くて(笑)。『いやうち、ワイン屋なんだけどなー』と思ってたんですけど、ようやく涼しくなってきて」
ワインにそれほど詳しくない客に「おすすめをお願いします」と言われたら?
「そう言われた方がうれしくて燃えますね(笑)。まずはこの日、うちで何軒目なのか。普段はなにを飲まれ、ワインは飲み慣れているのか。常連の方だと『この前はこっちを出したから、違う方をおすすめしてみようかな』とか」
自身の好きなワインは?
「一番はブルゴーニュとシャンパーニュ。もちろん世界中に他にも素晴らしい生産地はあるんですけどね。複合的にその二つが別格なの。そこに貼ってあるのはブルゴーニュの畑の地図で、暇なときはいつも想いを馳せながらグラス拭きつつ眺めてます。日本のワインもどんどんよくなってます。質も量も。いま47都道府県、すべてにワイナリーがあります。この街は転勤や単身赴任のお客さまが多くて『じゃあ私の県にもあるのかな』みたいな話になったり。日本のワインもね、どんどんすすめていきたいし、飲んでいきたいの。だって日本人ですから。日本酒や焼酎だけじゃない、日本のお酒の選択肢になればと思っています」
そもそも、ソムリエになろうと思ったきっかけは?
「お酒の中ではワインが好きで身体に合い、興味を持って飲んでいました。でも私は趣味を趣味として、ほどほどに楽しむことがすごく下手なんです(苦笑)。好きなものは極めたくなってしまう」