女流棋界は華やかなようで収入は不安定だ。年間成績が下位の女流棋士には降級点が付与され、それが重なると現役引退に追い込まれてしまう。
「私は自己肯定力が低いんです。降級点制度ができた瞬間『やばい、私、あっという間に降級点取って、行き場をなくす』と思って。放り出されても、食べていかなくちゃいけない。だから『ソムリエでも取るか』と」
ソムリエの受験資格を得るためには、飲食店に一定期間勤務する必要がある。
「一番忙しかったときは、昼間は対局、夜はイタリアンレストランで働き、そのあともバーで働くみたいな生活をしてて。いつ寝てたんだろう。試験は2007年に受けて、一度で合格できました」
以後、船戸は本格的に二刀流の人生を送り始める。日本女子プロ将棋協会(LPSA)主催の1dayトーナメントでも、何度も優勝を重ねてきた。
「真っ先に自分が降級点取るだろうと思ってたんですけど、幸いにして、まだ一度も取っていません」
カラーコーディネーターやフラワーデザインの資格も持つ。「洋服も和服も着こなし、ファッションセンス抜群」というのが、船戸をよく知る女流棋士たちの声だ。
「何を着るのかは直感で決めてます(笑)。『このシーズンはこれで』みたいなのが降ってくる。ソムリエは黒衣(くろこ)なので、制服だと思って、毎日黒い服を着ています。たまの休みの日には、カラフルなものを着たいとは思ってて」
髪の色もこれまで、変幻自在に変わってきた。
「その色にしたいと思ったら、もうがまんできないんです(笑)」
(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2023年11月6日号