駒澤大学のキャンパスにある東京都選定歴史的建造物「耕雲館」(1928年築)の前に立つ坂野井和代さん

 たぶん、普通に研究者をやっていたら、なかなかそういう体験ができません。まさか南極観測がこんなところで役立つとは(笑)って、正直、驚いています。

南極で聞いたうれしい言葉

 さんざん「女性としてどうか」と聞かれた南極ですが、私の場合は基本的に夜に1人で観測して昼間は寝る、という夜勤生活で、ほかの隊員と接触する機会が少なかったんですよ。ただ、行事にはなるべく参加しましたし、天候が悪くて観測できないときなどは昭和基地内の「バー」に行っておしゃべりしました。越冬も後半に入ったころ、南極は3回目というベテラン隊員がバーのカウンターで「女性が越冬するって聞いて、最初はどうなることかと思ったけど、別にどうってことないなあ」とポロっと言ったんです。これは私にとって本当に嬉しい言葉だった。今も忘れられない言葉です。

――坂野井さんも男性隊員たちも、お互いを気づかう気持ちがあったからこそなんでしょうね。

 女性を迎えるためにさまざまな準備や配慮をしてくださっていたことは感じました。でも、私のほうはあまり気をつかっていなかったような気がする(笑)。南極体験は私の財産ですが、博士論文を書いたことも良かった。データ解析してまとめるのは本当に大変でしたけど、どんな課題が降ってきたときも、データに基づいて考えることが自然にできたのは、博士課程で研究プロセスを学んだ結果だなって思います。いま、博士課程に進む人が減っていますが、私、博士課程に行くことはすごく勧めたいんです。絶対、ほかの道に行っても役に立つ。

 ただ、博士号を取ってもいろんな道があることは知ってほしい。私のように最終的に教育者になる道もある。「これじゃなきゃダメ」って思っちゃうと、結構苦しくなるときが多いのかなと思います。私は「これでもいいや」と思ってきた。要所要所で。だから生き残れた気がしています。

【お知らせ】11月11日(土)、オンラインセミナー「研究者に聞く仕事と人生-アエラドットの連載から学ぶ」が東京理科大理数教育センター主催で開催されます。

著者プロフィールを見る
高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

高橋真理子の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
台風、南海トラフ地震、…ライフライン復旧まで備える非常食の売れ筋ランキング