睡蓮みどりさん。性被害は生身の人間に起きることを自身の言葉で伝え、過去と向き合って生きていきたい──。その思いから、実名・顔出しで性被害を告白する(写真:本人提供)

 虐待やDV、性暴力などの被害を生き抜いた人を「サバイバー」と呼ぶ。そうしたサバイバーの苦しみは、被害に遭った時だけで終わらない。必死に生き続ける当事者の声を聞いた。AERA 2023年11月6日号より。

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 毎晩、夢を見る。人を殺したり、殺されたりする悪夢を。

「殺すのはたいてい年上の男性で、包丁のような刃物で、めった刺しにします。殺される時は、集団撲殺されることが多いです。そしてその様子を、冷静に見ているもう一人の私がいます」

 俳優で文筆家の睡蓮(すいれん)みどりさん(36)は、静かに話す。

 ほかにも、自分の全裸の死体が20体近く冷たい床の上に横たわっている夢もある。こうした悪夢のいずれかを、10年近く前からほぼ毎日、見るという。夢が自分の身に起きたことと関係しているかどうか、明確にはわからない。だが、消し去りたい過去の記憶と関係あるのかもしれない。2015年10月、27歳の時、レイプされた。

 学生時代にグラビアモデルとしてデビューした後、映画を中心に俳優として活動していた。被害に遭った年、知人の映画関係者を通じ、ある映画監督の男と知り合った。じきに男から、「やってほしい役があるから台本を取りにきてくれ」と連絡が来た。当時、睡蓮さんはフリーランスで活動していたため、マネージャーなどもおらず、一人で都内にある男の事務所に行った。そこで男から、洋服を脱いで誘惑する演技をするよう言われ、指示されるまま従った。すると男は豹変(ひょうへん)し、襲い掛かってきた。

 睡蓮さんはこの時、恐怖で声が出なかったことは、はっきり覚えている。しかし、レイプされたという認識を長年持てなかった。レイプは知り合いからされるものだと思っていなかったからだ。この被害に遭う前にも別の業界関係者から出演をちらつかせ関係を迫られた経験があった。この時も業界でよくあるセクハラの延長で、自分がうまくかわせなかったのが悪いと感覚がまひしていたのだという。

 それが昨年、同じ映画監督から性暴力を受けた女性たちの証言が本人のブログや週刊誌に出た。記事を読んで初めて、自分が受けたのは性暴力だったと客観視することができたという。今年になって、複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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