
いつか自尊心を取り戻して、人間らしく生きたい
実名・顔出しで、加害した映画監督への告発を決めた。昨年4月、ふだん映画時評を執筆している専門紙「図書新聞」の連載で、自ら被害の詳細を明かした。今は力関係から性暴力が起きやすい映画業界全体を変えたいと思い、「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」のメンバーとしても活動を続けている。
だが、常に生きづらさと背中合わせで生きている。毎晩のように見る悪夢もその一つ。SNSやメールでは、「売名行為だ」「枕営業だろう」。そんな言葉を投げかけられ二次被害に遭う。
一番苦しいのは「自分の身に起きたことが、自分の人生だと思えないこと」と話す。いまレイプされた事件を含め、過去に受けた様々なセクハラと向き合うため、記憶をたぐり寄せようとしている。だが、思い出すことはできてもそれが自分事として感じられないという。被害を俯瞰(ふかん)して見ている感じ、と。
トラウマ治療の医師からは、被害を自分事として受け止めるとつらすぎて生きていけなくなるため、そうやって他人事のように思うのは自然なこと、と言われた。だが、睡蓮さんは言う。
「切り離された他人の人生が、自分の中に存在しているような感じです。そのことが気持ち悪くて、自分のことを信用できません。苦しみを感じられない苦しみです。いつか自尊心を取り戻して、人間らしく生きたいです」
加害者の映画監督の男は、本誌の取材に、代理人弁護士を通じ、睡蓮さんの告発内容について、性行為は強要したことはなく配役などを材料に性的行為を持ち掛けたり、性的行為の見返りに役を与えたこともありません、などと回答した。
「魂の殺人」と呼ばれる性虐待や、親からの虐待やDV──。その苦しみは、被害に遭った時だけで終わらない。被害を生き抜いた「サバイバー」と呼ばれる人たちの「その後」の苦しみは長く続く。(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年11月6日号より抜粋