――なるほど、佐藤さんは諸星先生とパプア・ニューギニアを訪れ『マッドメンの世界』(河出書房新社)も出されていますよね。たしかに映画や漫画でもたまに耳にする言葉ですが、その実態とはメディアに描かれたイメージとは離れていたということでしょうか。
そうですね。日本では『マッドメン』、海外だと『世界残酷物語』(ヤコペッティ監督・1962)という映画の印象が強烈で、海岸や山の上で本当に人々が空を見ながら飛行機を待ち続けている、というイメージが強いんですが、それはかなりデフォルメしたものです。実際には第二次世界大戦や彼らの伝統生活と関わる相当に複雑な話でした。まずバヌアツにおけるカーゴ・カルトというのは、第二次世界大戦で突然文明社会と接した人々が、自分たちのアイデンティティを取り戻すために行なった特異な祖先、精霊崇拝ということが言えると思います。ちゃんと説明するとかなり長くなるので(笑)、大雑把にいうと、20世紀のはじめまでプリミティブな暮らしをしていた島に、唐突にイギリスの教会や植民地支配者、さらにアメリカの巨大艦隊が相次いで訪れた。そこで伝統社会が崩壊しそうになったとき、それを食い止めるジョン・フラムという謎の精霊が現れ、人々がその精霊に導かれて反抗運動を起こした、という出来事です。こうした神話的な物語はアフリカやメラネシアでは珍しいものではないかもしれませんが、興味深いことは、バヌアツではその信仰が現在もアクティブな形で続いているということですね。
伝統生活が続く、自然あふれる神秘の島で
バヌアツはパプア・ニューギニアなどと同じメラネシアの群島国家です。独立は1980年で、それまではずっとイギリスとフランスが植民地支配をしていました。植民地政府の本部や米軍基地があった首都のあるエファテ島などはリゾート的に発展しつつありますが、今回撮影の舞台となったタンナ島はほとんど熱帯雨林のジャングルで、今もほぼ全裸に近い形で暮らしている人々もいる。自分が訪れた中でいえば、例えばアフリカでも、あれだけ原始的な風景が残っている場所はもうないかもしれないと思います。ただそれは偶然生まれた光景ではなくて、さっき言ったように島の人々が宗主国のイギリスなどに抵抗して、自ら伝統生活を選んだ結果でもある。そこにはカーゴ・カルトというか、先のジョン・フラム信仰が深く関係していました。