佐藤健寿『CARGO CULT(カーゴ・カルト)』(朝日新聞出版/撮影:写真映像部・佐藤創紀)
佐藤健寿『CARGO CULT(カーゴ・カルト)』(朝日新聞出版/撮影:写真映像部・佐藤創紀)

こだわりの写真集には、自ら調べた3万字に及ぶ解説テキストも

――巻末には3万字近くの解説が掲載されています。これは佐藤さんが調べて書いたのでしょうか?

 そうですね。最初はもっとシンプルに写真集にしたいと思っていたんですが、気づいたらだいぶしっかり解説を書いてしまいました。ビジュアルだけでも十分強烈で興味深いものですが、カーゴカルト自体、歴史とか風土とか伝承とか色んなものが混然一体となってあの文化を作り上げているので、説明抜きにみたら多分何のことかわからないんじゃないか、と編集者に言われて、確かにそうかなと。ただ日本でもカーゴカルトについて出た本は1981年が最後で、文献もほとんどなかったので、海外の研究者の論文などにもあたって相当調べたりもしました。

――たしかに巻末は文字びっしりですね……今回の写真集の造本で特にこだわった部分を教えてください。

 カーゴ・カルトという信仰もそうですし、今回バヌアツで見聞きしたものも、一言でいえばカオスでした。神話が過去の伝承ではなくて、現在進行形で続いている。人々の話のなかでは人間と精霊が平気で混ざり合ったり、歴史の話をしているのか神話を聞いているのかわからなくなったりすることが多々ありました。あとは彼らの言葉はビシュラマという公用語があるんですが、これはかつてここで奴隷貿易が行われたときに英語とフランス語が混じり合って生まれた混成言語なんです。だから外来語がめちゃくちゃ多くて、色んなものが文化の中に取り込まれて、混ぜこぜになっている。そういうコラージュ的で、カオスな雰囲気というか文化が、そのまま本にできれば良いなと思いました。

 今回のデザインは前に写真集『世界』を手掛けてもらった佐藤亜沙美さんにお願いしたんですが、とてもこちらの意図をよく汲んでくれました。特に表紙は難しそうだなと思っていたんですが、自分が見たバヌアツというかカオスな光景とか空気感をそのまま封じ込めたような、独特でかっこいいものになったと思います。また表紙の写真はシールになっているため一冊一冊手作業で貼る必要があり、あまり見たことのないかなり手のかかったものになりましたね。

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