闘牛といえば、スペインが有名だが、日本でも牛同士がぶつかり合う伝統行事として全国9地域で闘牛が行われている。その一つが鹿児島県・徳之島だ。
「ワイド、ワイド!(『がんばれ』の意)という声援で盛り上がるんですけれど、ここまで闘牛で熱くなるのは徳之島が全国で一番ではないでしょうか。島の人口約2万2000人に対して、大きな大会になると、3000人くらい集まる。ものすごい熱気です」
徳之島に暮らし、島の人々や自然を撮り続けてきた加川徹さんは誇らしげに語る。
作品には、闘牛場の観客席の柵から身を乗り出し、こぶしを突き上げて牛を応援する子どもや若者たちの姿が写っている。
「となりの沖縄県でも闘牛が行われていますが、沖縄のファンも『この盛り上がりが徳之島の闘牛の魅力だね』って、言います。闘牛を神事として行う地域もありますが、徳之島の闘牛は生活に根づいていますから」
海外には「牛相撲」と紹介
大勢の人で闘牛場が埋め尽くされ、最後の大一番で勝利した横綱牛を取り囲んでいる写真もある。重さ1トンにもなる大きな牛の背中には赤いガウンがかけられ、そこに3人の子どもがまたがり、万歳をしている。
「勝ったときもワイド、ワイド!です。このときは『やったー』という意味ですね。何でもワイド、ワイドで盛り上がるから面白いですよ。闘牛好きのお父さんが亡くなったとき、出棺をワイド、ワイド!でお見送りするのを目にしたこともあります」
徳之島で行われている闘牛は「相撲」に近いもので、番付表には横綱や大関、関脇、小結の牛の名前が並ぶ。
「アメリカとアルゼンチンで闘牛の写真展を開いたことがあるのですが、『bullfighting(牛の戦い)』ではなくて、『bull sumo(牛相撲)』という表記にしました。そのほうが文化的に伝わりやすいですから」
それでも作品を目にした外国人から「血が出て、残酷だ」「かわいそうだ」と言われたことがある。それに対して加川さんは、「闘牛の牛たちはみんな家族のように育てられて、試合はボクシングと同じですよ」と説明した。
試合のルールはシンプルで、牛同士がぶつかり合い、先に戦意を喪失した負けとなる。
「強い牛ほど負けて逃げる牛を追いかけまわさないんです。勝負がついた瞬間、すっと止まる。それが凛として、かっこいいんですよ」