大きな牛を子どもが世話
巨大な牛がぶつかり合う試合だけでなく、子どもたちが巨大な牛を世話する様子にも引かれた。
「小学生が朝5時から草を刈って、牛に与えて、学校から帰ってきたら、また草刈って、散歩させる。すごいな、って思いました」
作品には小学校1年生くらいの子どもが牛の手綱をにぎり、その背後には気持ちよさそうに、体を土にこすりつける牛の姿が写っている。
「親に、『大丈夫なんですか。危なくないんですか』と、聞いたことがあるんですが、『ああ大丈夫だよ』って。試合以外の牛はびっくりするほどおとなしいんですよ。ぼくが住んでいるのは街なので、そういう光景を見たことがなかった。なので、最初に見たときは結構、カルチャーショックを受けました」
牛が子どもたちと一緒に道路や海岸を歩いているシーンもある。
「犬の散歩みたいに牛が道を歩いているんです。都会から来た人がそれを目にすると喜びますね。みんな車を止めて写真を撮ります」
父親が写した写真の価値
加川さんの撮影対象は闘牛だけでなく、天然記念物のアマミノクロウサギから街のスナップまで多岐にわたる。
「父親に影響されて、中学生のころから写真を始めましたから、趣味の延長で今にいたる、という感じです」
しかし昔は、父親が撮影をした写真について、「何でこんなものを撮っているのだろう」と思った。
「例えば、ソテツの実でみそをつくる作業なんかを撮っていたんですが、ぼくにとっては全然魅力的じゃなかった。でも時がたつと、それが宝物のように感じられるようになった。改めて思うのは写真の記録性ですね。なので今は、当たり前のものを撮って残さなければ、と思います」
かつて加川さんが闘牛ビデオを撮影していたころ、島には「半端ない数の牛がいた」という。人口も6万人を超えていた。しかし、人口減少とともに、闘牛が衰退しているのは否めないという。
「昔は奄美全域で闘牛をやっていたみたいです。けれど、闘牛が残っているのはもう徳之島だけです。残酷だと、闘牛に否定的な意見もありますが、ぼくはワイド、ワイド!で、闘牛を応援する側にいたいと思います」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】加川徹写真展「WAIDO ISLAND ~徳之島~」
ソニーイメージングギャラリー(東京・銀座) 11月3日~11月16日