作画の点ではもっとも密度が高く充実していたという「長い夢」。当時はとにかく余白が許せない生真面目さと体力があったと伊藤さんは語る
作画の点ではもっとも密度が高く充実していたという「長い夢」。当時はとにかく余白が許せない生真面目さと体力があったと伊藤さんは語る

 私の場合、一話あたり32ページだとして、ネームを描くのは早ければ2日くらい、遅いときは5日ほど時間を費やす。ネームができたら、次は鉛筆で下描きを行い、最後にペンで下描きをなぞる本描きをして完成となる。

 こうして振り返ってみると、漫画を描く作業というのは、前半は頭脳労働で、後半にいくほどに肉体労働になっていくことがわかる。

 悲しいのは、前半のストーリー制作やネーム作業を頑張ったからといって、後半の作画が楽になるわけではないことだ。むしろストーリーを練りすぎて時間がなくなり、徹夜で作画しなければならないことだってある。いつも、ああでもないこうでもないと悩みながら描き、ページが進むにつれて全体像が見えてくる。漫画家の仕事はこういった作業の繰り返しである。

伊藤潤二さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・東川哲也)
伊藤潤二さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・東川哲也)
著者プロフィールを見る
伊藤潤二

伊藤潤二

高校卒業後、歯科技工士の学校へ入学し、職を得るも、『月刊ハロウィン』(朝日ソノラマ)新人漫画賞「楳図かずお賞」の創設をきっかけに、楳図氏に読んでもらいたい一念で投稿。1986年、投稿作「富江」で佳作受賞。本作がデビュー作となり、代表作になる。3年後、歯科技工士を辞め、漫画家業に専念。「道のない街」「首吊り気球」「双一」シリーズ、「死びとの恋わずらい」などの名作を生みだしていく。1998年から『ビックコミックスピリッツ』(小学館)で「うずまき」の連載を開始。その後も「ギョ」や「潰談」など唯一無二の作品を発表し続け、2017年には漫画家生活30周年を迎えた。

伊藤潤二の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
なかなか始められない”英語”学習。まずは形から入るのもアリ!?