被害を矮小化する背景
撮影会で起きた不快な出来事をSNSに投稿したアイドルに対して、「売れてもないのに痛い」「扱いづらいタレント」などとレッテルが貼られていると感じたこともある。
「撮影会では『水着のひもをずらして』とか『お尻を突き出してほしい』とリクエストされることもよくあります。断ると、『あの子はやってくれたのに』『ブスのくせに露出の低い衣装で売れると思ってるの?』といった声をかけられることも。私は嫌なことは嫌だとはっきり言うタイプですが、言えない子もいる。それを守る仕組みも確立されていません」
渡辺さんは今、ライターとして、ジュニアアイドル時代に経験したことを記事などで発信している。かつてのファンの中には、そうした裏事情を知りたくないという人もいるだろうとも感じている。
「エンタメとして消費していたのに、女性が嫌々やらされていたんだと知りたくない人がほとんどではないでしょうか。際どいポーズや露出の多い水着も、見られるのが好きな女の子が自ら進んでやったことだと思いたいし、事務所側もその女の子が主体的にやっていたと見せようとしていた。そして、女の子側にも『嫌々やらされていたかわいそうな子』だと認定されたくないという思いがあるんです」
性的な不快感や被害を矮小(わいしょう)化してしまう背景には、「認知的不協和」もあるとSARC東京の支援員は言う。
「性暴力という耐えがたい状態をなんとか納得できる形にしたいと思い、自分の落ち度を探したり、被害を受けていないと思いこもうとする方もいます」
マッチングアプリで出会った相手との同意のない性交について、SARC東京に相談の電話をかけてきたある女性は、「被害と言っていいのかわかりませんが」と、おどおどした様子で話し始めたという。
自ら会いに行ったこと。お酒を飲んだこと。相手の部屋に上がったこと。どれも自分の選択だから、被害と言っていいのかわからない。電話越しに、そんな不安が感じ取れたという。