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重圧をはね返した4番
初球攻撃が売りの先頭打者、近本光司も変わった。四球は昨年の41個から67個に増え、勝負強さも磨きがかかって得点圏打率は3割7分4厘をマークした。
「投手は粘られて球数を投げさせられるのが一番嫌なんです。たとえば初回、近本選手が初球を凡打してくれると、相手投手は非常に助かる。もし打たれたとしても連打、連打は滅多にないので、四球を選ばれる方が私だったら嫌ですね」
2番の中野拓夢も18個から57個に四球を増やし、安打数はリーグ最多の164本(DeNAの牧秀悟と同数)。盗塁数でリーグ1、2位の近本と中野は足でも相手バッテリーをかく乱した。
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岡田監督は打順の固定にもこだわった。1、2番の「チカナカ」コンビと4番大山悠輔、「恐怖の8番」と言われた木浪聖也はほぼ不動。8月以降は3番に森下翔太、5番に佐藤輝明が座り、固定オーダーが完成する。昨季までの大山は勝負どころでボール球に手を出し、何度ため息をつかされたことか。しかし今年は何度もバットを止めた。99個の四球と出塁率.403は堂々たるリーグ1位だ。
「大山選手は試合状況により、次につなぐバッティングをしていました。ピッチャー心理を読めるようにもなった気がします。相手投手がボールになる球を振らせようとすると見逃し、打ってこないだろうと投げた甘いボールをフルスイングで捉えていた。大きな成長ですね」
リーグ優勝を決めた9月14日の巨人戦の後、誰より号泣していたのが大山だった。
「口数が多いほうではなく、ひとりグッとこらえている姿をロッカーなどで私も見ています。食事がのどを通らず、バナナだけを口にしていたときもあった。阪神の4番は打てば新聞の1面ですが、打てなければ叩かれる。聞こえなくていいことが、自然と耳に入ってくるんです」
能見さんは21年に阪神からオリックスに移籍し、翌年引退した。阪神時代よりオリックスでは笑顔が多かった気がする。
「カメラの数や記者さんの数も多く、見られている場面が阪神のほうがずっと多いんです。ふざけたことは普段はできないし、負けているときに笑顔で練習はできません。いつもより早くグラウンドに出ただけで『なぜですか』と、記者さんに聞かれたりしますから(笑)」
(ライター・守田直樹)
※AERA 2023年10月23日号より抜粋