データベースを利用して新しい材料開発に結びつける研究の一端をパソコン画面に示す
桂ゆかりさん

 研究室は男子校のようなところで、人間関係では苦労しました。高校のときに経験できなかった分、人付き合いの本などを読んで勉強もして、一生懸命気を使って楽しく盛り上げようと頑張ってました。最初はうまくいっていたのですが、途中からは思いもよらぬ誤解をされたり、自分の悪口が広まったりして……。

――それは女性が少ないから?

 いや、男女は関係なく、単純に人間関係が濃すぎただけだと思います。だから、すれ違いとか、いろいろ発生するんですよね。でもここで、期待通りのドロドロの人間関係を体験できたので、それは今もすごい糧になっています。

能力生かす研究テーマを考えた

 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)の革新材料開発という研究領域で私たち5人の共同研究が2019年に採択されました。実はその前年にメンバーの1人が申請書を書いたら通らなかったんです。それで、私が、メンバー一人ひとりの能力を多く生かせるような研究テーマを考えたら、「それでいこう、桂さんが研究代表者で」ってなった。そして私が申請書を書き直して出したら通りました。

 人にどう思われるか気にしすぎていた頃の人間観察が、チームづくりのシミュレーションに利用できて、みんなが生き生きと研究できる仕組みを作れるようになった気がしています。

――その共同研究はどういうものですか?

 新しい無機材料を探す研究をデータ科学で効率化するものです。何千個もの試料を大量合成したり、新しい合成方法を使ったりして新規材料を見つけて、最終的に役に立つデバイスの開発を目指します。原子の並び方を想像しやすくするアプリを作ったり、私たちが作ってきたデータベースの機械学習を取り入れたりして、材料科学の世界の全体像を眺めながら研究できるようにしたいと思っています。

――データベースを使った新しい材料科学が生まれてきているわけですね。

 はい、データベースも今は熱電材料がメインですが、ほかの材料科学分野にも広げて、ゆくゆくは材料科学全体の実験データを集めてみんなが研究に活用できるようにしたいと考えています。

【お知らせ】11月11日(土)、オンラインセミナー「研究者に聞く仕事と人生-アエラドットの連載から学ぶ」が東京理科大理数教育センター主催で開催されます。

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高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

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