作ったデータベースは無償で公開しています。実験データは著作物(表現物)ではないので著作権的に問題はないんですが、大学や研究機関が出版社と結ぶ購読契約では論文の営利目的の利用が禁じられているので。有償化するべきとも言われたのですが、そもそも、データベースの本当の目的は、世界の材料研究が効率化して、もっと良い材料を世の中に送り出せるようになることです。それが私にとっての「ど真ん中」の目的。論理的に追求した本質的な目的です。
どんな場面でも全部自分で考え抜いて判断するようにしていれば、たとえ自分のことを否定する人が出てきても、全然、心はぶれないです。ちゃんと言い返せます。
「こんなのは研究とはいえない」
――否定する人がいたんですね。
「こんなのは研究といえない」と私に言う人はいました。私から見れば、この研究の価値が理解できないんだな、と。だから、若い人たちには「こんなのは研究として認めてもらえないだろう、と思う研究テーマが新しい研究分野です」と伝えています。
――それはいいアドバイスですね。実際、データベース開発が研究として認められて、NIMSの主任研究員(任期なし)になった。
そういうことになります。東大工学部応用化学科を卒業して大学院で博士号を取ってから11年あまりは任期付きのポストでした。最初にポスドク(博士号取得後研究員)として行ったのは理化学研究所(埼玉県和光市)です。そこで熱電材料の研究をするようになり、よく知られている12種類を選んで熱電特性の理論計算結果を比較して発表したら、それまでこういう比較をした人がいなかったみたいで、熱電学会であたたかく受け入れていただきました。
理研は3年で終わり、次に東大の実験系のポスドクを2年やり、理論系のポスドクになって1年たったときに女性専用の助教の枠が取れたというお話をいただいた。私がそれまでやってきた材料を幅広く研究していて、前から行きたいと思っていた研究室です。実験もやるし、理論もやるし、半々の感じも私がやってきたことと合っていた。
――女性枠への抵抗みたいなものはなかったですか?
最初は少しありました。でも女性を増やすという目的で新しい助教ポストが追加されたことで、助教1人体制だった研究室が2人体制になったので、1人あたりの負担が減って良かったです。それに、自分が将来十分に成果を出せるか不安だった頃に、「いざとなれば女性枠も使えるだろうからなんとかなる」と思えたことで、研究職をやめることを全く検討せずに済みました。
――ポスドクのときは不安が大きかったですか?
う~ん、振り返ってみれば、それほどでもないかなと思います。2年や3年といった短い任期はマイナスに思われがちなんですけど、私は気兼ねなくいろんな研究室を体験できる機会としてすごく楽しみました。理論系の研究室は難しくて怖そうだなと思っていたんですが、任期が切れるときに応募してみたら受かりました。入ってみると、意外とのんびりしていて、実験データであれば正しいと思っている。実験系にいた私からすれば「実験データでもそんなに信用できないときはあるよ」って言いたくなった(笑)。やっぱり、違う文化のところに入ってみるって大事ですね。全然違う視点が生まれるので。