「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」。10月14日は、この句の作者、正岡子規の誕生日。この男、なにが凄いのか? 同郷の俳人・夏井いつきさんが、俳優・奥田瑛二さんととことんその魅力について語り合った『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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「よもだ」という勲章
正岡子規が生まれたのは伊予の国(現・愛媛県松山市)。私が今、暮らしているのも伊予の松山。俳都松山とも名乗っている。
伊予の言葉に「よもだ」というのがある。
「あの人は『よもだ』じゃけん」とか「『よもだ』ぎり言いよる」とか、そんな使い方をする。「へそ曲がり」というか、「わざと滑稽な言動をする」というか、そんなニュアンスだ。
皆さんは、子規の有名な横顔の写真をご存じだろうか。
陰気臭い顔して、真横を向いて、特徴ある後頭部がぐりんと突き出している、あの白黒の写真だ。明治時代に写真を撮ることは贅沢の極みであったろうに、なぜ、横を向く? 誰もがそう思うに違いない。
松山市立子規記念博物館名誉館長であった天野祐吉さんが「ソッポを向く人」という題名で子規について書かれた文章がある。