1988年公開の『快盗ルビイ』で、小泉今日子は初めて「映画の賞」を受賞しました。毎日映画コンクールとヨコハマ映画祭の主演女優賞に輝いたのです。

この作品で彼女が演じたのは、真田広之演じる「真面目サラリーマン」をそそのかし、共犯に引きずりこむ「快盗」加藤留美です。ここでの小泉今日子の眉毛のラインや髪形は、あきらかにオードリー・ヘプバーンを意識しているように見えました。

「不意に思い立って、スタイリストから泥棒に転身しようとする」という留美のキャラクターは、現実離れしています。「妖精」と呼ばれ、生身の人間とは思えないような雰囲気のあるオードリーに似あいそうな役どころといえます。小泉今日子も、まさしくオードリー風の「ファンタジックなかわいらしさ」で留美を演じています。

公開当時の映画評を見ても、『快盗ルビイ』の小泉今日子からオードリー・ヘプバーンを連想した人は多かったようです(注2)。これに対し、『十階のモスキート』のリエは、ソフィー・マルソーを思わせます。マルソーは、小泉今日子と同じ1966年の生まれ。1980年の映画『ラ・ブーム』(日本での公開は1982年)で世界的な人気を得ました。

『ラ・ブーム』でのマルソーは、「不良」の役ではないものの、「思春期の少女」のリアルなたたずまいを感じさせます。体つきも、成長期のさなかだけあってアンバランスです。そんなソフィー・マルソーと、生活感の伝わって来ないオードリー・ヘプバーン。どちらの雰囲気も表現できる女優は、古今東西を通じて珍しいといえます。若き日の小泉今日子は、まさにその「珍しい女優」でした。

「なんてったってアイドル」を歌ったり、全身黒塗りで雑誌の表紙に出てみたり――アイドル時代の小泉今日子は、猛烈に「キャラが立っていた」ように思われています。しかし、演技をする際には、デビュー当初から役によって「身にまとうオーラ」を自在に変えるタイプでした。

木村拓哉の芝居は「どの役をやってもキムタクがキムタクしている」と評されます。作中世界の人物像よりも、木村拓哉の個性がつねに前面に出ているからです。役者としての小泉今日子は、そういうタイプのまさしく対極にいます。

■「ありのまま」ではない「自然体」――小泉今日子の「アイドル戦略」

 小泉今日子はアイドル時代から、演じる役によって体ごと雰囲気が変わるタイプでした。そんな風に「変幻自在であること」を、あらゆる俳優が目指すわけではありません。たとえば斉藤由貴は、1986年のインタビューで次のように話しています(斉藤由貴は小泉今日子とおなじ1966年生まれです)。

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