日本では、国民的英雄である大谷の一挙一動は、野球に興味がなくともテレビの報道や記事などで毎日のように目にするが、アメリカでは野球ファンであっても大谷だけを見ているわけではない。日米で温度差があるのは当然だ。

日本野球への高評価

 最後に、大谷がアメリカに与えた影響について少し触れよう。

 大谷のメジャーでの成功によって、日本のプロ野球のレベルや、小中高での選手育成などに対する評価が上がったのではないかと考える日本人もいるようだが、正直、変わっていない。

「というのも、日本の野球に対する評価は、元々かなり高いからです」と野球専門誌ベースボール・アメリカの記者で国際野球事情に詳しいカイル・グレーザーは言う。

「イチローや松坂大輔など、多くの日本人選手がメジャーで成功しているし、大谷の才能がすごいことも、渡米前から分かっていたことです」

 日本が人材の宝庫として認識されているのは、甲子園での全国大会にメジャー球団がこぞってスカウトを派遣していることでも明らかだ。

 しかし、そんな中でも、大谷は別格だとグレーザーは言う。

「大谷は100年に一人の逸材です。どこで育ったとか、そんなことは関係ないくらい」

 評価すべきは、大谷の二刀流を作り上げた北海道日本ハムファイターズだとグレーザーは付け加える。高校を卒業してすぐメジャーに来ていたら、そんな常識外れなことは無理だと一蹴され、投手か野手のどちらかに専念させられていただろう。

「日本が大谷の二刀流を育んで成功させたからこそ、メジャー球団もやりたい若い選手には投打の両方をやらせてみようと言い出したんです」とグレーザー。

 例えば、ジャイアンツは、22年のドラフトで一塁手と投手の両方をこなすレジー・クロフォード、今年のドラフトでも同じく二刀流のブライス・エルドリッジを1巡目で指名した。私の周りにも、大谷の活躍を見て、自分の子どもに投打の両方を続けていってほしいと考えるようになったアメリカ人の親は多い。

 不可能と思われていた道を切り開き、アメリカの常識を変えた。これこそ大谷の最大の功績だろう。(在米ジャーナリスト・志村朋哉)

AERA 2023年10月16日号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
2024年この本が読みたい!「本屋大賞」「芥川賞」「直木賞」