ジャニーズ事務所やビッグモーターら次々と明るみに出る同族経営の企業による不祥事。一方で、国内の多くの企業は同族会社だ。健全な経営を続けるためには何が必要なのか。AERA 2023年10月9日号より。
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ガバナンス不全に陥る悪(あ)しき同族経営──。そんなイメージが広がるが、国税庁の21年度「会社標本調査」によると、株主の上位3グループ以内が保有する発行済み株式又は出資の総額が50%を超える「同族会社」は国内の全企業の96.4%にのぼる。トヨタ自動車(豊田家)、キッコーマン(茂木家)、キヤノン(御手洗家)、パナソニック(松下家)といった大手から、地方の商店街にある電器店まで、周囲には同族経営の会社があふれている。そう簡単に批判できる問題ではないのだ。
著書に『新・日本の階級社会』がある早稲田大学の橋本健二教授(階級階層論)は、
「国内の小零細企業の大部分が後継者不足で、外部からの登用も難しい状況にある。伝統工芸や地場産業が生き残っていくためには同族経営は必要です」
とした上で、1955年から社会学者らによって10年ごとに実施されてきた「社会階層と社会移動(SSM)全国調査」の結果を分析し、こう指摘する。
「高度経済成長期はチャンスの多い時代で、会社員や労働者が事業を起こすなどして新たに経営者になる可能性がありました。しかし、その後は参入のチャンスが減り、経営者の子どもでないと経営者になれないという継承性が高まっています」
変わりゆく時代。その波にうまく乗りながら、健全な経営を続けていくには、何が必要なのだろうか。
著書に『「三代目」スタディーズ』のある神戸学院大学の鈴木洋仁准教授(歴史社会学)はこう話す。
「『組織』を続けていくのか、『血』を続けていくのか。『組織』の存続だと割り切れるか否かが、同族経営を含めたすべての企業の存続にかかっています」
例えば、サントリーは創業家出身の4代目社長だった佐治信忠・現会長が14年10月、新社長にローソン会長だった新浪剛史氏を迎えた。佐治会長は、当時の会見で、後継者を外部から選んだ理由を「社内外を探したが、最適なのが新浪さんだった」と説明し、こう強調した。
「サントリーも115歳になり、悪しき官僚化が進んだ。新しい風をもう一度吹き込んでほしい」