身支度も大変である。刀や衣裳は無理せず、立派なものでなくても見苦しくなければ十分だが、常に身だしなみは整えておくべきとされた。「たとえ出仕しない日でも、少しの用事があれば人前に出るものだ。客人が来てから狼狽えるようでは見苦しい」と早雲は言っている。
仕事は午後2時頃に終わるが、帰宅後も気を抜けない。下男下女の報告で済ませず、自分で厩から家の裏まで見て回り点検する。夜6時には閉門。火の用心は何度もかたく申し付け、台所や茶の間も自分の目で見る。夜、早く休むのは灯油の節約と夜盗に備えるためだ。
「夜盗は子丑(深夜11時から3時)に訪れるものだから、この時刻に寝入ると対処できない。家の存亡だけでなく外聞も悪い」と防犯対策や火の用心を繰り返し述べた。加藤清正の『掟書』や、藤堂高虎の『遺書録』にも、やはり早寝早起きや武術の鍛錬、日常の心得の大切さなど大体同じことが家臣に言い聞かせるように記してある。平時でも怠りなく過ごすことが治国の第一歩であったのだ。
※週刊朝日ムック『歴史道Vol.29 戦国武将の暮らしと作法』から