小さな赤ちゃん用の手帳

 さて。今回の外来小児科学会では素敵な出会いがありました。2500g未満の低出生体重児を育てる家族のサークル「pena」さんです。

 Penaにはハワイ語で絵の具という意味があり、「ひとつひとつの絵の具のように独立した色(個性)を大事にしながら同じ立場の仲間や社会と混ざり合って共に生きていきたい」という思いが込められているそうです。私はこのサークルが発案した「かながわリトルベビーハンドブック」に以前から関心を持っており、学会の展示ブースにお伺いしました。

神奈川県内で低出生体重児を育てる家族のサークル「pena」さんが発案した1500g未満で生まれた赤ちゃんのための「リトルベビーハンドブック」。「できた日付」を書き込めるようになっていて、ご家族が他のお子さんと比較せずに赤ちゃんの記録を残せるように配慮されています(写真/pena提供)

 かながわリトルベビーハンドブックは、1500g未満で生まれた赤ちゃんのために母子手帳のサブブックとして作成されたもので、神奈川県の公式事業としても県のホームページで紹介されています。

 1500g未満で生まれた赤ちゃんの多くは、通常の母子手帳の発達基準になかなか入ることができません。基準に入らないと、発達を確認する項目の「はい(できる)」「いいえ(できない)」に「いいえ」を多く回答しなければならなくなり、以前から「子どもを否定しているようだ」「早産してしまった自分を責めてしまう」という声が多くあったそうです。

 そこでこのハンドブックは、体重は0gから、発達は「できた日付」を書き込めるようになっています。

 赤ちゃんが定型発達の基準内に入らないと、パパやママはとても不安になりますよね。かながわリトルベビーハンドブックには、小さく生まれた赤ちゃんを育てるご家族に向けて「ひとりではないよ」というメッセージが込められているそうです。

 こうしてつらかった経験を次の世代のために改善し、形にして伝えていくのはとても大変な作業です。でもきっと、当事者にしか伝えられない強い思いが行政を動かし、リトルベビーハンドブックの作成につながったのだと思います。同じピアサポーターとして、これからもpenaさんと交流させていただきたいと思っています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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