覚えたかどうかよりも、覚えるための行動の中にある”真面目さ”を見る……先生の、そんな思考が透けて見える。
ただ、こゆきさんは「自分は悪くない! 悪いのは他の人だ!」とは思っておらず、むしろ、「自分の能力が低いからダメなんだって思っていました」と思っていた。背景には、彼女が幼少期から”本の虫”で、さまざまな物語世界を現実の世界以上に受け止めてきたことが関係している。
「私は、物語を通して人間という生き物を理解していました。物語の中に出てくる中学生ってすごく大人じゃないですから。だからこそ、ああいう風になれない自分が当時はすごく嫌だったんです。本を開くと、ハリーはロンやハーマイオニーと、一緒にいろんな楽しみを共有している。でも、私は周りが楽しめてるものを自分だけ楽しめずにいる。クラスの子と仲良く、うまくやれない。その結果、『もし自分にもっと協調性があったら、親や先生を困らせなかったのかな?』『自分自身はそこまで興味がなくても、周りのクラスメイトたちが好きなことや楽しんでいることを尊重できたなら、学校も苦痛じゃなくて、周りみたいに頑張れたのかな?』『それができない自分には、何か欠陥があるんじゃないか』と思うようになって……。いま思えば、完璧主義だったところもあるかもしれませんね」
小説は基本的に大人が書いているので、その中に登場する子どもたちも当然かなり大人びているが、こゆきさんは自身にも周囲にも、高い水準を求めてしまっていたようだ。