「愚痴」は、仏教では、ものの道理がわからず愚かであることを指すそうです。言ってもどうにもならないことをくどくどとこぼし続けるのは、確かに聡明な態度とは言えないでしょう。同じ話を何度もされたりするとうんざりしますよね。でも、やり場のない想いを言葉にするのはそんなに悪いことでしょうか。私はそうは思いません。酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すように、身の内に生じるものを言葉に乗せて放つのは命を繋ぐための摂理。二酸化炭素は出しすぎると地球を壊すけど、人と人の間をほのかに温めることも、あるのではないかと思います。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2023年9月25日号