タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
* * *
愚痴をこぼしたくなったとき、あなたは誰に連絡しますか。誰にも言わず、猫に話しかけるとか植物に聞いてもらうという人もいるでしょう。長野駅の近くで、週末の夜に道行く人の愚痴を7年近くも無料で聞き続けている二人組の男性がいるそうです。人の話を聞くのが好きで、気づきも多いので続けているのだとか。職場でも家庭でもない第三の場所を提供したいという思いがあるそうです。
サードプレイスを持ち、雑談やぼやきを語り合える仲間を持とうとはよく聞きます。でも大人になってから安心できる新たな人間関係を築くのは簡単ではありません。通りすがりの他人だからこそ、話しやすいのかも。私もタクシーの運転手さんとおしゃべりすることがあります。先日乗せてくれた方は、可愛がっている犬の病気が心配だ、以前亡くした犬も忘れられないと話してくれました。「長々すみません、職場では話せないし、息子も聞いてくれないので、つい」と。その方の「誰かに聞いてほしい」という想いに触れて、私も温かい気持ちになりました。目的地に到着するまでの束の間のひと時を過ごす一度きりの間柄だからこそ、話す方も聞く方も素直になれるのでしょう。