――それは女性だから、ですか?

 そこはわからないですね。電子伝達系の研究のほうがスマートだと思いましたけど。とにかく大学院の5年間は、カボチャの種子に大量に含まれる貯蔵たんぱく質を結晶化し、それを酵素化学的に解析する研究に取り組みました。試行錯誤の連続でしたけど、いま振り返れば、カボチャの研究からいろんな発見が生まれたので、先生からは良い贈り物をいただいたと思っています。

 その後に結婚し、夫が所属する名古屋大学農学部生化学制御研究施設に移籍してからは、動的な細胞生物学に目覚めました。7月から8月には、農学部の圃場で栽培してもらったカボチャを研究室に運んでは、未熟な種子の細胞の中のどこで貯蔵たんぱく質が作られて、どうやって運ばれるかを調べた。終着点は「液胞」と呼ばれるところです。液胞は細胞社会のゴミ捨て場で、当時は、あまり注目されていなかった。競争を好まない私としては格好の研究対象でした。

研究に没頭する日々

 カボチャの種って結構大きいので、扱いやすいんですよ。毎年の季節労働で、たんぱく質を液胞に運ぶのに欠かせない「選別輸送レセプター(VSR)」を見つけることができた。また、液胞に運ばれたあとにたんぱく質は成熟型に変化するんですが、オフシーズンには、そこで働く酵素の単離・精製に没頭した。やっと正体を明かすことができた酵素を「液胞プロセシング酵素(VPE)」と命名しました。岡崎に行ってからも液胞の研究を続け、研究成果の発表を聴いてくださった京大の先生が植物学教室の教授公募への応募を勧めてくださった。

――京大教授になったのが1999年ですね。

 就任できたのは幸運だと思いますが、さらなる幸運は赴任した研究室にウイルスの専門家が助教授としておられたことです。一緒に研究したら、ウイルスが植物に感染すると液胞の膜が破れて、中に入っていた分解酵素が細胞中に放出されてウイルスをやっつけるという仕組みを発見したんです。植物の細胞がウイルスを巻き込んで心中するということです。

――へえ、面白い仕組みですね。

 液胞は、細胞内のゴミ、つまり不要成分を壊すための分解酵素はたっぷり持っている。ただ、これの膜が破れるだけでは細胞の外で増殖する細菌には届かない。細菌に感染した植物細胞は、液胞内と細胞外を繋ぐトンネルを作って、分解酵素などを細菌に振りまくことも見つけました。

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