――ほう、細胞の中で増殖するウイルスと細胞の外で増殖する細菌のそれぞれに合わせて液胞が身を挺して戦っているわけですね。
そうなんですよ。私たちがウイルスや細菌に感染したら、免疫細胞が働いてくれますが、植物は免疫細胞を持たない。ゴミ捨て場である「液胞」がウイルスや細菌に対する防御を担っているとは驚きでした。
ゲノム解析で世界が激変
――本当に、生物のすごさ、巧妙さを感じますね。
ヒトゲノムのドラフト解読が宣言されたのは私が京大に移って間もないころで、植物学の世界ではシロイヌナズナのゲノムが最初に全解読され、世界中で盛んに研究されるようになった。まさに大激変です。それでシロイヌナズナのゲノムから、小さいたんぱく質(ペプチド)に注目して、ホルモン作用のあるものを探しました。そうしたら、気孔を増やすホルモンが見つかった。気孔は「ストマ」、それに、生み出すという意味の「ジェネレーション」を合わせて、「ストマジェン」と名付けました。
植物ホルモンのほとんどは有機化合物でしたが、ストマジェンは、45個のアミノ酸が結合したペプチドでした。その後も、ほかの研究室、特に日本の研究室から様々なペプチド性の植物ホルモンが報告された。ゲノム情報が整備された「モデル植物」から新しいホルモンが次々に見つかっていく。まさに生物学がゲノム時代に入ったことを実感しました。
細胞の中が流れるように動く「原形質流動」の研究にも、ノーベル賞を受けた下村脩先生が発見された緑色蛍光たんぱく質(GFP)を使って取り組みましたよ。原形質流動が発見されたのは250年前ですが、なぜ起こるのか、その原動力は謎だった。これは本当に不思議な現象で、私は阪大時代の学生実習で映像を見てからずっと忘れられないでいた。GFPは見事に、この細胞内運動の仕組みに迫ることを可能にしてくれました。