くわしい原因はいまだ研究中であるものの、刺激に対する脳機能の働きや疾患、個人的な経験など、さまざまな原因で起きると考えられている。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、知的発達症(ID)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、うつ病、PTSDといった感覚過敏や鈍麻と親和性の高い医学的診断名もあるが、感覚過敏や鈍麻は「定型発達」にもみられる特性であることは、注目すべき点だろう。つまり、ごく一般的な人でも抱えうる「人間の多様性の一部」というわけだ。
知られざる「感覚鈍麻」という苦しみ
「制服や靴下が痛い」という加藤さんの体験談は、感覚過敏(触覚過敏)によるものだが、一方で、「感覚鈍麻」について認識している人は、いったいどれだけいるだろうか。いまだその名称、概念すら知らない、といった人も多いかもしれない。
加藤さんは、自身の運営する感覚過敏の人のためのコミュニティ「かびんの森」にて、アンケートを実施した。以下は、そのアンケートに寄せられた、実際に「感覚鈍麻」に苦しむ人たちの、切実な、そして、苛烈な現実の一部である。
・「(身体を強打しても)アザができ、出血していることにすら気づかないのは日常茶飯事。足を骨折しても『なんか、歩きづらい』としか感じず、周囲の人が慌てているだけだった」(18歳・女)
・「真夏でも長袖で過ごし、気づけば脱水症状や熱中症になっていた」(17歳・女)
・「(骨折や怪我という)衝撃があったことはわかりますが、何も感じません。血が波打っている感覚や細胞が動いているのはわかりますが、衝撃の強さを練習して覚えるしかない。麻酔のかかった状態に近いのかも」(30代後半・性別不明)
また、彼らは口をそろえて「空腹を感じない」と訴える。
「食べたいと思う物がなければ、食べないままでいい」「空腹を感じず、いつの間にか低血糖に陥っていることがある」「(食事は)必要だから摂らなくてはという、義務感、強制感しか感じない」「『お腹が空いてきた』という感覚がなく、気づくのは我慢ができないほどになってから。腹八分目もわからないので、食べると動けなくなる」……ということだ。