この“平均値”から離れた感覚の特性を「感覚過敏」「感覚鈍麻」といい、くわしくはいまだ研究中であるものの、刺激に対する脳機能の働きや疾患、個人的な経験など、さまざまな原因で起きると考えられている。

 つまり、加藤さんが「クラスのみんなの賑やかな会話」「甲高い笑い声」によって頭痛を引き起こしていたのも、冷蔵庫や空調、時計の秒針などの生活音、環境音が気になる、といった感覚過敏のひとつ「聴覚過敏」によるものだった。

「不登校」につながるケースも……

 症状の強弱こそあれ、感覚過敏は“見えない特性”のひとつ。だからこそ、周囲には当人の困り感がわからず――そもそも「感覚過敏」といった特性への理解も満足といえない状況下で――「なぜ、こんなことができないの!」「わがままではないのか?」といった認識を持たれることが多い。当然、当人のつらさは増していき、不登校などにつながるケースも少なくない、という実態がある。

 とくに学校などの教育現場では、これまで「みな同じ」「足並みをそろえる」ことがよしとされてきた。そこで、感覚過敏を持つ子どもたちにとって大きな“壁”となるのが、今、スタートしたばかりの「2学期」なのである。遠足、運動会、文化祭……。本来ならば“楽しいイベント”となるはずの、これら学校行事が目白押しの「2学期」が、感覚過敏を抱える子どもたちに何をもたらすか、すでにおわかりの方も多いのではないだろうか。

 運動会のピストル音は、加藤さん曰く「耳の中で何かが爆発したように感じて、目の前が真っ白になってしまう。破裂音は鋭い刺激となって耳に飛び込み身体は硬直。身動きさえとれなくなってしまう」。そのため、どうしてもみんなよりスタートが一拍遅れるのだそうだ。

 このピストル音のみならず、加藤さんが実体験として語るように「スピーカーから流れる音楽やアナウンス、大勢の人のざわめき、声援。全身にまとわりつく砂ぼこり。さえぎるもののない太陽光。体育倉庫から出した備品のにおい」と、運動会は、感覚過敏を抱える子どもにとって、ときに苦しみを伴うイベントのひとつとなる。

 また、遠足や修学旅行につきものの交通機関(電車、バス、車、飛行機)も、彼らを苦しめる要素のひとつ。味覚や嗅覚、触覚などの過敏に加え、「前庭覚(=平衡感覚)」の感覚過敏を持つ子どもは、揺れなどによって乗り物酔いを起こしてしまうという。

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