インドのラジャスタン州で取引先の社長から説明を聞き、農地を分析する坪井さん。ケニア、エチオピア、東南アジアなどにも事業を広げ、近々ルワンダにも展開予定。写真=サグリ提供

 研究室の教授も背中を押してくれた。

「尾崎伸吾先生は『本当にやりたいことに向かったほうがいい』と起業を応援してくれました。研究室で研究の実績とキャリアを積んでいくという“王道”から外れた挑戦をポジティブにとらえてくれたのがうれしかった」

 そして、もう一つの転機が訪れる。NPOの活動の一環でルワンダの小学校を訪れたときのこと。プログラムの最後に、子どもたちに夢を発表してもらった。パイロット、医師など日本の子どもと同じような夢が並ぶ。ところが、彼らは中学校には行けないと言う。生活に余裕がなく、親の農業を手伝わなくてはならないからだ。教育の前に解決すべき課題があるのでは。自問自答しながら帰国した。

大学生活は探求心に応えてくれる

 モヤモヤした気持ちを抱えていたとき、たまたま人工衛星の観測データを無償で利用できることを知る。これを使って農業を変えられれば、ルワンダの子どもたちが夢へと踏み出せるかもしれない。帰国からひと月もたたないうちにサグリの事業をスタートさせた。テクノロジーで農業を効率化すれば、農作業で学校に通えない途上国の子どもたちが、十分な教育を受けられる未来につながる。

「次世代に負の遺産を押し付けたくないし、何もしないまま死ぬのは嫌なんです。ルワンダのような忘れられないシーンが情熱をかき立ててくれるから頑張れるんです」

 事業立ち上げのため大学を3年半休学し、研究室に戻って昨年卒業した。在学中は専門科目以外にも経営学など、さまざまな講義に出席した。

「大学生活には探求心に応えてくれる場が学内にも学外にもたくさんあります。視野と価値観をどれだけ広げられるかは自分次第です」

 研究者志望から思わぬ方向に歩みを進めてきた。

「初めから人生全体を描くことはできません。どうありたいのかをざっくりと描いたら、それをより深めて解像度を上げていく作業なのかなと。見える世界が広がっていくから、そのとき最適なものを選べばいい。振り返って、ベターな方法があったと思うことはあります。でも、当時の僕にはその選択がベストだった。だから後悔はありません」

サグリ代表取締役CEO 坪井俊輔/1994年神奈川県生まれ。横浜国立大学理工学部機械工学・材料系学科卒業。在学中の2016年に株式会社うちゅうを創業し、18年にサグリ株式会社を設立。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022」に選出されている。

(文・仲宇佐ゆり)

アエラムック「就職力で選ぶ大学2024」(朝日新聞出版)より

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