研究チームは、こうした研究成果が、ヒトの細胞がどのように発達し統合するのか、異種の細胞が互いにどのようにコミュニケーションするのかを解明する手がかりになることを期待しているという。(ニューズウィーク日本版 2021年4月19日配信記事より)
本研究は培養皿上で行われ、子宮に戻したり、子が生まれたりするまでには至っていない。ベルモンテ教授も、部分的にサル、部分的にヒトの胚で動物を作ろうとするつもりはなく、そのような種で人間の臓器を育てようとするつもりもないことを強調する。
とはいえ、ヒトに近い霊長類を使った研究であることのインパクトは大きく、サルの胚にヒト細胞を注入する研究は倫理的な懸念もあるため、米国立衛生研究所(NIH)は公的研究資金を出さないと決めている。細胞レベルでの研究は認められているものの、ヒトと他の生き物のキメラを誕生させることは、多くの国で禁止されている。
ヒトとヒト以外のキメラというパンドラの箱を開けてしまったことへの懸念や倫理的な問題を指摘する研究者が数多くいる一方で、中国・昆明理工大学の季維智教授は、ヒトと他の生物のキメラを作る理由として、将来的に他の生物の体の中で人間の臓器を作り出し、移植用の臓器不足を補う、人類のための技術であることを挙げている。
作る理由と作るべきではない理由の双方が交錯する中で、今日もさらなる研究が進んでいる。作ると作らない、それぞれにとっての動機があるため、相当の強制力をもって禁止できない限り、結局は作り続けられることになる。仮に禁止されたとしても、その動機自体が消滅しないのならば、ルールを破ってでも陰で作り続ける者が現れることを想定しておかなければならない。
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