AERA 2023年9月11日号より

 では、温暖化が「底上げ」した自然現象とは、どんなものなのか。くわしく見ていこう。

 三重大学教授(気象学)の立花義裕さんは、日本の夏の猛暑の原因としてまず、「偏西風の蛇行」を挙げる。

「ここ数年、偏西風が激しく蛇行する傾向があり、北に出っ張ったところにちょうど日本が位置している。そこに高気圧が留まることで暑くなっているんです」。

 なぜ蛇行するのか。水も空気も、速く流れる場合はまっすぐ流れ、ゆっくりだと蛇行する性質がある。近年の偏西風はゆっくり流れ、今年も遅いという。

「では、なぜ遅いのか。偏西風は、北極の寒気と赤道の暖気の間で吹いています。寒気と暖気の差が大きければ大きいほど、偏西風は強く吹くんです。ところが、近年は北極地方が極めて激しく温暖化しています。その影響で温度差が減り、偏西風はゆっくり流れる。ゆっくりだと、ふらふらと蛇行する。地球温暖化が、偏西風の激しい蛇行を作っているわけです」(立花さん)

 さらに日本の暑さに影響を与えているのが台風だ。台風の中心付近は猛烈な雨をもたらすが、台風からの上昇気流が下降気流に変わる台風の外側では、下降気流が熱を生み出す影響で高気圧が強まり、暑くなるという。

「また、異常にゆっくりした動きで九州地方に大雨を降らせた台風6号は、偏西風の蛇行で北に居座っていた高気圧の影響で動きが遅かった。遅くなり、暖かい海域で熱と水蒸気をたくさんもらった台風は強さを増します。増せば、台風の外側は下降気流が強まって暑くなる。つまり、偏西風の激しい蛇行と台風が相互に影響を及ぼし、ますます日本を暑くしたわけです」(同)

 こういった気象現象以外にも猛暑の原因はある。海面水温だ。

「今年の日本近海の海面水温は異常に高い。東北や北海道の近海など北日本は特に高く、最も高いところでは平年より5度から6度も高い。海面水温はいったん上がるとなかなか下がりません。だから海風が吹いても、まだ暑い。8月23日に札幌で観測史上最高気温(36.3度)を観測したのも、近海の水温が高かったからでしょう」(同)

 なぜ海面水温が高くなったのか。その原因が7月から8月上旬にかけての猛暑だ。偏西風の蛇行や台風の影響で観測史上最高規模の猛暑が夏の前半に起きたことで海面水温が上がり、夏の後半にまで尾を引いている。つまり偏西風の蛇行に始まった猛暑にともなう異常気象の連鎖反応が起こっていると、立花さんは指摘する。

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