「さらに、日本の南を流れている暖かい海流である『黒潮』の流れの異常さ。いつもなら紀伊半島南の潮岬あたりからまっすぐに東に流れてアメリカに向かうのですが、今年は日本の沿岸にへばりついたまま激しく蛇行し、静岡県あたりから銚子(ちょうし)を回って岩手県あたりまで行っている。こんな黒潮は見たことがありません。これも猛暑が長引いている原因でしょう」
教科書とは違う現象
もう一つ、謎がある。今年は南米ペルー沖の海面水温が高温になるエルニーニョ現象が起きている。「エルニーニョが起きた年は、日本は冷夏」と言われてきたが、今年はなぜ暑いのか。
「南米沖の水温が上がると、積乱雲がたくさんできる。そこから上昇した気流が下降気流となり、南米の北の海域に高気圧を強める。つまり、エルニーニョの影響で太平洋高気圧の中心が東にずれるため、いつもなら日本は暑くならない。ただ今年は日本の南、インドネシアあたりの海面水温が下がりません。そこにも積乱雲が活発にできて日本の南に下降気流が来るので、日本も暑い。教科書とは違うエルニーニョが起きている」
今年の夏は大雨も目立った。夏に限らず、気象庁のデータでは1時間の降水量が80ミリ以上といった猛烈な雨の年間発生回数が、1980年頃と比べるとおよそ2倍になっている。
「これも地球温暖化の影響です。日本付近の海面水温が、世界的に見て有数の上昇率を見せている。海が暖かいほど水蒸気がたくさん蒸発し、雲ができやすくなる。気象現象としての『ふつうの低気圧』に加え、海上の多量の水蒸気が低気圧の強度を増し、強い雨を降らせるんです」
猛暑などの異常気象には、ちゃんと理屈がある。そしてほとんどの理屈が、地球温暖化に関係している、と立花さんは言う。
ただ温暖化はCO2の排出を急激に減らしたとしても、すぐには元に戻らない。日本の年平均気温は100年あたり1.3度上昇してきている。今年も、10月になっても秋らしい気候は望み薄だと、立花さんはみている。
「異常気象はもはや『ニューノーマル』になりつつある。この先、日本の四季は『二季』のような感じになっていくかもしれません。温暖化対策に、一刻の猶予もありません」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年9月11日号より抜粋