21年。松尾は2組準決勝で昇竜の勢いの藤井聡太(現七冠)と対戦。藤井が銀をタダで捨てる歴史的妙手▲4一銀を指し、同年の「名局賞・特別賞」を受賞した。
「自分としてはそんなに積極的に語りたい話ではないんですけれど」
後日感想を尋ねられると、松尾はそう苦笑していた。
「負けた将棋の話ですからね(笑)。でも、ファンの皆さんの求められていることでしょうから」
松尾は全棋士参加棋戦において何度も上位まで進みながら、まだタイトル獲得、優勝は果たせていない。
「そこに関してはあと一歩というか、勝負弱い面があると思われるかもしれません。ただ自分はどちらかというとそうは思っていなくて。本来、実力が伴っていれば、わりと短いスパンで次のチャンスがまた来るはずです。もちろん勝負師としては結果も大事です。でも実力をしっかりつけて成長していきたいという意識の方が強いかもしれないですね。うまく将棋に集中できない、気持ちが乗らずちょっと怠けちゃうみたいなこともあったりしました。それも含めて、甘えと紙一重だとは思いますが、その時々でベストを尽くしたととらえるようにしています。いろいろ考え、葛藤がありながら、がんばって生きてきたんじゃないかなと」
(構成/ライター 松本博文)
※発売中のAERA2023年9月11日号では、色紙に書く言葉についても語っている。2021年春から今春までのこの連載をまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)が発売中