AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。30人目は松尾歩八段です。発売中のAERA 2023年9月11日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。
【写真】小学6年生で「ポスト藤井」と言われた将棋界の新星はこちら
この記事の写真をすべて見る「一歩一歩、歩んでいきたいと思う」
2001年、松尾歩は新人王戦で優勝した際、自戦記の結びにそう記した。
「『印象に残る対局』と言われてぱっと思い浮かぶのは、新人王戦の木村一基さん(現九段)との対戦です。三番勝負の1局目で、わりとうまく指せたかなと」
松尾は相手の歩頭に銀を出る鮮やかな攻めで圧倒した。
「木村さんからしたら、ちょっと不出来な将棋だったかもしれないんですけど、自分としてはうまく一本の勝ち筋をたぐり寄せられました」
将来を嘱望された若手の一人だった松尾は、順調にステップアップを重ねていく。竜王戦では現在までに、最上位クラスの1組に10期在籍している。
08年の1組(出場者決定戦)。同世代の橋本崇載(のちに八段)との一戦は、知られざる松尾の名局だ。
「(歩頭に)銀を出て、タダで捨てて攻めをつなげる手があって。それでいい勝負なんですけど、いまでも印象に残っています。あるとき思い出して『ソフトの評価はどうなんだろう』と調べてみたら、わるい手ではなかった。自分は攻めっ気の強い方で、そのいい面が出たのかなと」
17年。松尾は竜王戦1組で王者・羽生善治に勝って優勝。挑戦者決定三番勝負まで進んだものの、羽生と再び当たり、1勝2敗で敗退する。
「振り返ってみれば『ちょっとがんばりが足りなかったのかな』とかそういう言葉が出てくるのかもしれません。でも、そもそも自分はあまり過去を振り返らないんです。羽生流ではないですけど、反省したらすぐに忘れます」