農地改革は、結婚による上昇移動を急増させたという点においても、戦後の日本社会に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

 戦後、農地改革を経て20年くらいは、全国的に農業は経済的にもよかったわけです。農家に嫁いだら──婿に入ったら──本人は泥まみれになって働かなければなりません。けれども、将来豊かな家族が築けると誰もが思えました。夫の親と同居するといっても、平均寿命が短かったのでそれほど長い期間一緒に暮らすことはなく、介護の問題などもほとんどなかったのです。

 この母親にとって結婚とは上昇移動なのでしょう。だから「自分の家よりもいいところに嫁にやらなきゃ」と思い、そのために娘を高学歴にした、けれども娘に見合う相手が見つからないということで悩んでいたのです。そして、跡継ぎの息子については「自分の家よりもよくないところで育った女の人はたくさんいるのに、なぜ相手が見つからないのか」と嘆いていたわけです。

 戦後は、他の自営業でも農業と同じように上昇移動が期待できました。消費者が豊かになり、都市人口が増えることで商売も右肩上がりに売り上げが増えていきます。一方、都会に出たサラリーマン男性は、日本的雇用慣行(終身雇用や年功序列賃金)によって収入が安定して上昇移動が可能でした。

次のページ
いまより、親よりいい生活を求めて