つまり、女性にとっては誰と結婚しても経済的条件を満たしたのが、戦後の結婚の特徴なのです。

「いまよりも、親よりも、よい生活ができると思える相手」というのが結婚の経済的条件であって、要は結婚前の生活との比較です。つまり、それまでの生活が貧しかったがゆえに、結婚後の生活が安定したり上昇したりするというわけです。だから戦後しばらくは、たとえ農家に嫁いだとしても、徐々に豊かになる家族というものが形成できたのです。

 それは高度成長期が終わるまで続きます。貧しさを経験している昭和ひとけた生まれから戦中生まれ、団塊の世代までは95%以上の人が結婚しました。つまりこの世代のほとんどの人は、誰と結婚しても豊かな家族生活をつくれるという経済的条件を満たしていたと言うことができます。

 要するに、上昇移動への期待があり、それが実現されていたからこそ、戦後から高度成長期までは、ほとんどの人が結婚する「皆婚社会」が成り立っていたわけです。
 

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山田昌弘

山田昌弘

山田昌弘(やまだ・まさひろ) 1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主な著書に、『近代家族のゆくえ』『家族のリストラクチュアリング』(ともに新曜社)、『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『新平等社会』『ここがおかしい日本の社会保障』(ともに文藝春秋)、『迷走する家族』(有斐閣)、『家族ペット』(文春文庫)、『少子社会日本』(岩波書店)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)などがある。

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