もう20年ほど前の調査になりますが、九州の農家に話を聞きに行ったことがあります。60歳くらいの母親が40歳くらいの息子と娘が結婚できなくて困っているというケースをインタビューしました。母親の話は次のような内容です。

「私が若い頃は、短大を出たお嬢さんがすごいお金持ちと結婚した。だから私も頑張って娘を短大に入れた。娘はいい人と結婚できるはずだから、農家には絶対に嫁にやらない。もし農家に嫁がせるんだったら、お手伝いさんつきのところじゃなきゃダメだ。娘にも、短大卒なんだからそうしろと言い聞かせて育てた」

 息子のほうはどうかと聞くと、「うちは財産があるから、なんで息子が結婚できないかわからない」と。「財産ってなんですか」と聞いたら、「私が若い頃はみんな小作農だったけど、農地改革でちゃんと土地持ちになった。土地持ちになったんだから、そこに嫁がこないわけがない」と言うのです。

 この母親は1950年代に農家に嫁いできました。当時は、戦後の農地改革で農家がみんな小作農から土地持ちになったことで、小作農の娘が自作農の後継ぎと結婚するという「上昇移動」の状況にありました。

 つまり戦後しばらくは、同じ農業でも、ほとんどの人が自分の育った家庭よりもいい家庭と結婚できたわけです。20年前に60歳だったこの女性にとって結婚は、親は小作農だけれども、嫁いだ先は自作農という上昇移動だったのです。

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