戦後の農地改革で、自作農になった一家(写真と本文は関係ありません)

 生涯未婚率が上がり、婚活に励む人も珍しくない昨今。しかし、今では考えられないが、誰もが結婚できた時代が日本にはあった。いったい、なぜなのか。家族社会学者である山田昌弘氏の著書『結婚不要社会』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し紹介する。

【図】世代別未婚率の推移はこちら

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要素としての愛情と経済

 近代社会における結婚は、経済的に自立するということでもあります。つまり、経済的に豊かな生活を築くことができる相手というものが結婚の基準になるわけです。

 戦後日本の家族モデルは、夫が主に仕事、妻が主に家事という性別役割分業で豊かな生活を目指すというものです。それは高度成長期、家業から企業社会への緩やかな移行の中で達成されるわけです。

 家業を継ぐ人のところに嫁に行く場合、夫の親と同居する──婿の場合は妻の親と同居する──のが普通です。

 戦後は、家業の継承はだんだん少なくなりますが、農業を含めた家業も経済的に安定していました。農業や自営業は、政府によって保護されていたこともあって、農家や商店などの後継ぎと結婚しても家業がつぶれることはなく、だんだん豊かになることが可能だったのです。

 農業に関しては農地改革の影響が大きかったと言えます。農地改革によって小作農がいなくなって皆が自作農になりました。

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山田昌弘

山田昌弘

山田昌弘(やまだ・まさひろ) 1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主な著書に、『近代家族のゆくえ』『家族のリストラクチュアリング』(ともに新曜社)、『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『新平等社会』『ここがおかしい日本の社会保障』(ともに文藝春秋)、『迷走する家族』(有斐閣)、『家族ペット』(文春文庫)、『少子社会日本』(岩波書店)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)などがある。

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農地改革が変えた結婚観